キャリアパス2026-07-08監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

リスク・コンプライアンスとPMの関係 — 「守りの仕事」が、実は最も景気に左右されないキャリアである理由

この記事の要点

「リスク管理やコンプライアンスの仕事は、地味で将来性がないんじゃないかと不安なんです」。金融機関のリスク管理部門で働く方から、こう相談されることがあります。率直に言うと、これは大きな誤解です。むしろ金融DXが進むほど、リスクを制御しながら事業を前に進められる人材の重要性は増しているというのが僕の実感です。

0. 前提 — 規制は「止まらない流れ」である

誤解がないように申し上げると、金融規制は景気の良し悪しにかかわらず、継続的に強化される傾向にあります。新しい金融サービス(BaaS・暗号資産・生成AI活用等)が生まれるたびに、それに対応する新しい規制やガイドラインが整備されるためです。この「止まらない流れ」の中にいるということ自体が、リスク・コンプライアンス人材にとって大きな安定要因になっています。

1. リスク・コンプライアンスPMが担う3つの役割

1-1. 規制対応プロジェクトの推進。新しい規制・ガイドラインへの対応を、期限内に組織全体へ落とし込むプロジェクトを主導します。

1-2. 内部統制の強化。業務プロセスの中に潜むリスクを洗い出し、統制の仕組みを設計・導入します。

1-3. 新規事業のリスク審査。BaaS・組込金融など新しい金融サービスの立ち上げ時に、リスクを審査し、許容できる形に調整する役割を担います。

2. なぜ「石橋を叩きすぎる」と見られがちなのか

この印象は、リスク・コンプライアンス部門の仕事が「事故が起きないこと」を目的にしているために生まれます。事業側から見ると、進めたいプロジェクトに待ったをかける存在に映りやすく、良好な関係を築くには相応の工夫が必要になります。

リスク・コンプライアンス部門は、その性質上「止める」「待たせる」という判断をすることが多く、事業側からは慎重すぎると見られがちです。しかし、これは役割の性質上避けられない側面であり、問題は「止める」判断そのものではなく、その判断の根拠を事業側に納得感のある形で説明できているかどうかにあります。

2-1. 「規則だからダメ」という説明では、事業側との信頼関係は築けません。

2-2. 「このリスクを取ると、最悪こういう事態になりうる。だからこの範囲までなら許容できる」という、リスクの大きさと許容度をセットで説明できると、事業側の理解が得やすくなります。

3. コラム — 「守りの人」から「事業の相談役」への転身

僕が面談した40代前半の男性は、大手保険会社のコンプライアンス部門で、10年以上にわたり社内規程の整備と監査対応を担当してきた方でした。ある年、新規事業として組込金融プロジェクトが立ち上がった際、彼は「規制に詳しい人」としてプロジェクトの初期段階から参画を求められました。

当初は「止める役」として警戒されていましたが、彼が「この部分はリスクが高いが、この条件を満たせば進められる」という代替案を提示し続けるうちに、事業側から「相談すれば前に進む道を一緒に考えてくれる人」として信頼されるようになったといいます。プロジェクト完了後、彼は「リスク管理×新規事業推進」という専門性を掲げ、複数の金融関連企業から声がかかるようになりました。

彼が語っていた言葉が印象的でした。「止めることが仕事だと思っていたけど、本当の仕事は進める条件を一緒に探すことだったんです」。この視点の転換こそが、リスク・コンプライアンスPMの本質だと僕は考えています。

4. 新しい金融サービス特有のリスクへの対応

4-1. BaaS・組込金融特有の不正利用リスク。従来の金融機関だけで完結していた不正検知の仕組みを、外部連携先も含めた形で再設計する必要があります。

4-2. 生成AI活用に伴う新しいリスク。AIによる審査・与信判断が広がる中、説明責任・公平性の担保という新しい論点への対応が求められています。

4-3. データ連携拡大に伴う情報漏えいリスク。API連携先が増えるほど、リスクの管理範囲も広がるため、継続的な見直しが必要になります。

5. 面接で伝えるべき「守りの実績」の語り方

リスク・コンプライアンスの実績は定量化しづらいという特有の難しさがあります。ここで有効なのは、「監査指摘件数の削減」「規程改定にかかった期間の短縮」「新規事業の承認までのリードタイム短縮」など、間接的な数字を積極的に使うことです。守った実績と同時に、事業を前に進めた実績としても語れるよう整理しておくことをお勧めします。

5-1. キャリアの広がり — リスク管理からPMOへ

リスク・コンプライアンスの経験を積んだ方の中には、その知見を活かしてPMO(複数プロジェクトを横断する統括役)へキャリアを広げるケースも見られます。複数のプロジェクトのリスクを横串で見てきた経験は、プログラム全体のリスク管理を担うPMOのポジションと親和性が高いためです。守りの専門性を極める道と、統括役へ広げる道の両方が、リスク・コンプライアンス経験者には開かれています。

5-2. 「攻めのコンプライアンス」という考え方

近年、一部の金融機関では「攻めのコンプライアンス」という考え方が広がりつつあります。これは、規制対応を単なる義務として後追いで処理するのではなく、事業戦略の初期段階からコンプライアンス部門が関与し、規制の変化を先読みして事業機会に変える発想です。たとえば、新しい規制ガイドラインが検討されている段階から情報を集め、他社に先駆けて対応体制を整えることで、結果的に新規事業の立ち上げスピードで優位に立つ、といった動き方です。

この考え方を体現できる人材は、単なる規制の専門家ではなく、事業戦略を理解した上でリスクをマネジメントできる人材として、今後さらに評価が高まっていくと僕は見ています。

6. 転職先を選ぶ際に確認すべきこと

6-1. リスク・コンプライアンス部門が経営層に直接意見を届けられる体制になっているか。

6-2. 新規事業部門との連携体制が整っているか、あるいはこれから整備する段階なのか。

6-3. 規制対応が「作業」として扱われているか、「事業戦略の一部」として位置づけられているか。

(結論)リスク・コンプライアンスは、景気に左右されない専門性である

まとめます。①金融規制は継続的に強化されており、リスク・コンプライアンス人材の需要は景気に左右されにくく安定している。②規制対応プロジェクトのPMは、事業とリスクの両方を理解した「守りの翻訳者」として希少性が高い。③「止める」だけでなく「進める条件を示す」姿勢が、事業側との信頼関係を築く鍵になる。

率直に言うと、守りの仕事は地味に見えて、実は金融DXが進むほど重要性を増す専門性です。景気の波に左右されにくいという特性は、長期的なキャリア形成を考える上でも大きな魅力になります。まずは15問の適性診断で、自分がどの金融PMタイプに近いかを確かめてみてください。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. リスク・コンプライアンスの経験はPMとしても評価されますか

評価されます。特に新しい金融サービスの立ち上げプロジェクトでは、規制対応とリスク審査を推進できるPMの需要が高く、守りの専門性がそのままプロジェクト推進力として評価されます。

Q. 「石橋を叩きすぎる」という印象を払拭するにはどうすればいいですか

「止める」判断の理由を、リスクの大きさと許容度をセットで事業側に説明することが有効です。単に規則を理由にするのではなく、進められる条件を提示する姿勢が信頼構築につながります。

Q. リスク・コンプライアンスからPMOへのキャリアチェンジは可能ですか

可能です。複数プロジェクトのリスクを横串で見てきた経験は、プログラム全体のリスク管理を担うPMOのポジションと親和性が高く、実際にこのキャリアパスを歩む方は少なくありません。

Q. 新しい金融サービスのリスクにはどう対応すればいいですか

BaaS・組込金融の不正利用リスク、生成AI活用に伴う説明責任、データ連携拡大に伴う情報漏えいリスクなど、従来にはない論点が増えています。継続的な情報収集と、既存の統制の枠組みの見直しが必要です。

Q. 「攻めのコンプライアンス」とは何ですか

規制対応を義務として後追いで処理するのではなく、事業戦略の初期段階から関与し、規制の変化を先読みして事業機会に変える考え方です。事業戦略を理解した上でリスクをマネジメントできる人材として評価が高まっています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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