市場動向2026-07-08監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

金融DX案件はなぜ急増しているのか — 「守りの業界」が同時多発でシステムを作り替え始めた

この記事の要点

「金融って保守的だから、DXなんてまだ先の話じゃないですか」。求職者の方から、こう聞かれることがよくあります。率直に言うと、僕の肌感覚では、この質問はもう1〜2年遅れています。2026年現在、僕が面談する金融機関・関連企業の求人票には、以前ならほとんど見なかった「勘定系刷新プロジェクトマネージャー」「BaaS事業開発」「組込金融API連携担当」という文字が、当たり前のように並ぶようになりました。

0. 前提 — 金融DXの多くは「攻め」と「守り」が同時に走っている

誤解がないように申し上げると、金融DXは単一の潮流ではありません。片方には、老朽化した勘定系システムを止めずに作り替えるという「守り」の巨大プロジェクトがあり、もう片方には、銀行機能をAPIとして外部に開放するBaaSや、非金融事業者のサービスに金融を組み込む組込金融という「攻め」の新規事業があります。この二つが同時多発的に走っているのが、今の金融DXの実態です。

この「守り」と「攻め」が同時に走っているという構造こそが、まさに今、案件が急増している最大の理由です。

1. 案件急増の一次要因 — 勘定系・基幹系刷新の継続的な投資

金融機関の勘定系システムは、数十年単位で使われ続けてきたものが多く、保守要員の高齢化・技術の陳腐化という構造的な課題を抱えています。クラウド移行やAPI化を伴うリプレースは、一社あたり数年〜十数年がかりの一大プロジェクトになることも珍しくありません。

1-1. 僕が面談で聞く限り、こうした大型プロジェクトは常にどこかの金融機関で走っており、経験者への需要が途切れることがありません。プロジェクトが一つ終わるころには、別の金融機関で次のプロジェクトが立ち上がっているという構造です。

1-2. さらに、移行を担った経験者自体が高齢化しつつあり、「刷新の経験がある人」の希少性はむしろ年々高まっています。

2. 案件急増の二次要因 — BaaS・組込金融という新しい市場の立ち上がり

もう一つの決定的な要因は、非金融事業者が自社サービスに決済・後払い・貸付といった金融機能を組み込む「組込金融」の広がりです。銀行側もこれに応える形で、自行の機能をAPIとして提供するBaaS(Banking as a Service)事業を強化しています。

この動きにより、これまで金融機関の中だけで完結していたプロジェクトが、非金融事業者を巻き込む形に変わりつつあります。事業スピードを重視する非金融事業者と、規制対応を重視する金融機関側の間に立つPMの需要が、ここから生まれています。

3. なぜ「PM」が決定的に足りないのか

案件は増えているのに、それを推進できる人材が足りない。これが今の金融DXの最大のボトルネックです。理由は明快で、金融DXのPMには、二つの異なる専門性が同時に求められるからです。ひとつは金融実務の理解(勘定系の構造・規制・商習慣がどう回っているか)。もうひとつはITプロジェクトの推進力(要件定義・ベンダー調整・事業側との調整)。

3-1. IT業界出身の人にプロジェクトを任せると、金融特有の規制やリスクへの理解が浅いまま設計を進めてしまい、後工程で大きな手戻りが発生する、という失敗が頻発します。

3-2. 逆に金融機関出身の人だけに任せると、プロジェクト管理の型を知らないため、要件が膨らみ続けてスケジュールが破綻する、という失敗が起きます。

この両方を橋渡しできる人材が、今、圧倒的に不足しているというのが実態です。

4. 金融DXの求人が増えている今、PM転身が有利な理由

ここで朗報があります。この橋渡し役は、必ずしも最初からIT×金融の両方に精通している必要はありません。僕がこれまで支援してきた方々を見ると、多くは「勘定系・基幹系での実務経験」や「リスク管理・コンプライアンスの経験」を土台に、DXプロジェクトへ参画するところからキャリアを広げています。金融の実務を知っているという武器は、実は代替が効かない希少資産です。

逆にIT側の知識は、プロジェクトの中で学びながら補強できる部分が大きい。もちろん基礎知識のインプットは必要ですが、「金融を知っている人が仕組みを学ぶ」方が、「仕組みを知っている人が金融を後から学ぶ」よりも実務上はスムーズに進むケースが多い、というのが僕の実感です。

5. コラム — 勘定系運用担当からBaaS事業へ移った、ある方の話

僕が面談した30代後半の男性は、地方銀行系のシステム会社で10年、勘定系システムの運用保守を担当してきた方でした。ある日、行内で新しく立ち上がったBaaS事業の推進チームに、「基幹システムの制約が分かる人」として声がかかりました。

最初は「新規事業のことは分からないので」と及び腰だったそうですが、外部の非金融事業者との要件定義会議に出るたびに、「その連携方式だと勘定系側で対応できません」という指摘を繰り返すうちに、いつしかプロジェクトの中心人物になっていったといいます。1年後、彼の肩書は「運用保守担当」から「BaaS推進マネージャー」に変わり、転職市場でも即戦力として複数社から声がかかるようになりました。

彼が語っていた言葉が印象的でした。「新しい技術を覚えたんじゃなくて、勘定系の言葉を事業の言葉に翻訳しただけなんです」。この翻訳作業こそが、まさに金融PMの本質だと僕は考えています。

5-1. 大手行とスタートアップ、求人の性質の違い

金融DXの求人を見比べていると、大手金融機関とFintechスタートアップとでは、求められるPM像がかなり違うことに気づきます。大手金融機関の勘定系刷新プロジェクトでは、数十億円規模の予算と数年がかりのスケジュールを、複数ベンダー・複数部門を横断しながら統括する力が求められます。一つの判断ミスが数千万円単位のやり直しにつながるため、慎重さと合意形成力が特に重視される傾向にあります。

一方、Fintechスタートアップや事業会社のBaaS推進チームでは、少人数体制で意思決定のスピードが速く、規制対応と事業スピードを自分の判断で両立させる胆力が求められます。どちらが「上」というわけではなく、自分がどちらの環境で力を発揮しやすいかを見極めることが、転職先選びの重要な軸になります。

6. 金融DXが今後さらに広がる3つの領域

6-1. オープンAPI対応の本格化。銀行API公開の流れは今後も続き、対応できるPM・エンジニアの需要は継続的に増える見込みです。

6-2. リスク管理・不正検知のデジタル化。組込金融の拡大に伴い、新しい形の不正リスクへの対応が各社の重要課題になっています。

6-3. データ活用基盤の整備。勘定系から生まれる大量のデータを、事業判断に活かすための基盤整備が進んでいます。

これらはいずれも、金融実務を理解した人材がプロジェクトの中心に立つべき領域であり、IT専門人材だけでは成立しにくい構造を持っています。

7. 転職市場から見た「今」というタイミングの意味

僕がこの仕事を長く続けてきて感じるのは、市場には「早すぎるタイミング」と「遅すぎるタイミング」があるということです。金融DXは、勘定系刷新という「守り」の投資がすでに継続的に走っているという意味で、早すぎることはありません。一方で、BaaS・組込金融という「攻め」の市場は立ち上がったばかりで、PM人材の供給が追いついていないという意味で、遅すぎてもいません。つまり今は、比較的稀な「ちょうど良いタイミング」に当たっていると僕は見ています。

7-1. こうしたタイミングの読み方は、転職活動全般において軽視されがちですが、実は年収交渉や求人の選択肢の幅に大きく影響します。市場が成熟してから参入するより、黎明期に飛び込んで実績を積む方が、結果的にキャリアの伸びしろは大きくなる傾向があります。

7-2. もちろん、黎明期ゆえの不確実性(プロジェクトの型が確立していない、社内の理解が得られにくい等)もあります。しかしこれは裏を返せば、自分がその型を作る側に回れるということでもあります。

(結論)金融DXの主役は、ITの専門家ではなく金融実務の翻訳者である

まとめます。①金融DXは勘定系刷新という守りの投資とBaaS・組込金融という攻めの投資が同時進行しており、案件が急増している。②案件はあるがPMが足りず、金融実務理解とプロジェクト推進力を両方持つ人材が決定的に不足している。③金融機関のシステム・業務経験者はこの橋渡し役に最も近い場所にいる。

率直に言うと、金融DXはまだ黎明期です。だからこそ、今参入する人にとっては伸びしろの大きい市場だと僕は見ています。まずは15問の適性診断で、自分がどの金融PMタイプに近いかを確かめてみてください。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 金融業界未経験でも金融DXのPMになれますか

なれます。金融機関での実務経験がない場合でも、ITプロジェクトの推進経験があれば橋渡し役として評価されるケースが増えています。重要なのは金融知識の量そのものより、規制・リスクへの理解を深めようとする姿勢です。

Q. BaaSと組込金融の違いは何ですか

BaaSは銀行機能をAPIとして外部提供する仕組み、組込金融は非金融事業者が自社サービスに金融機能を組み込む取り組みを指します。視点が金融機関側か非金融事業者側かの違いで、実務ではセットで語られることが多い概念です。

Q. 勘定系刷新プロジェクトは今後も続きますか

続く見込みです。金融機関の勘定系システムは数十年単位で使われるため、リプレース需要は一定のペースで継続的に発生し、経験者への需要が途切れることは考えにくい状況です。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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