BaaS・組込金融プロジェクトの実態 — 「入れて終わり」にならない、規制と事業スピードの両立法
- BaaSは銀行機能のAPI提供、組込金融は非金融事業者への金融機能組み込みを指し、両者は表裏の関係にある。
- 事業スピード重視の非金融事業者と規制重視の金融機関側の温度差を調整できるPMの需要が急拡大している。
- 規制対応を後回しにするとリリース直前で大きな手戻りが起きるため、企画段階からの並走が成功の鍵になる。
「決済機能を自社アプリに組み込みたいんですが、何から始めればいいですか」。非金融事業者の担当者から、こう相談を受けることが増えています。率直に言うと、この質問への答えは一つではありません。事業側が思っている以上に、金融機能を組み込むプロジェクトには規制・審査・リスク管理という、通常のシステム開発にはない工程が挟まるからです。
0. 前提 — BaaSと組込金融は同じ現象を違う立場から見た言葉
誤解がないように申し上げると、BaaS(Banking as a Service)と組込金融(Embedded Finance)は、別々の現象ではありません。銀行が自行の機能をAPIとして外部に提供する取り組みをBaaSと呼び、非金融事業者がその機能を自社サービスに組み込む取り組みを組込金融と呼ぶ、いわば表裏の関係にあります。
この二つを別物として捉えると、プロジェクトの全体像を見誤ります。同じ現象を、提供側と利用側のどちらから見ているかの違いに過ぎません。
1. なぜ組込金融プロジェクトが増えているのか
ECサイトの後払い決済、SaaSに組み込まれた請求代行、業界特化アプリでの少額融資。こうしたサービスの裏側では、非金融事業者が銀行・ノンバンクと連携し、金融機能をAPI経由で自社サービスに組み込んでいます。自社で金融免許を取得せずに金融機能を提供できるという点が、多くの事業者にとって参入障壁を下げる要因になっています。
1-1. 事業者側から見ると、既存の顧客接点に金融機能を足すことで、新たな収益源を作れるというメリットがあります。
1-2. 金融機関側から見ると、自行のシステムを直接エンドユーザーに提供せずとも、API経由で広く利用してもらうことで新たな手数料収益を得られるというメリットがあります。
2. プロジェクトでつまずきやすい3つのポイント
2-1. 規制対応の後回し。事業側はまずプロダクトを作り、規制対応は後で考えようとしがちですが、資金決済法・貸金業法などの適用範囲を後から確認すると、機能自体を作り直す必要が生じることがあります。
2-2. 審査基準の理解不足。金融機関側がどのような審査基準で連携先を選定するかを理解しないまま提案を進めると、企画が通らないまま時間だけが過ぎてしまいます。
2-3. 定着フェーズの見落とし。API連携が完了しただけではプロジェクトは終わりません。実際の利用データを見ながら不正利用対策やユーザー体験の改善を続ける定着フェーズこそが本番です。
3. BaaS・組込金融PMに求められる3つの力
3-1. 規制とビジネスの両方を理解し、企画段階から金融機関側のリスク部門と対話できる力。
3-2. 事業側のスピード感を尊重しつつ、必要な規制対応の工程を適切なタイミングで差し込む調整力。
3-3. リリース後のモニタリング・改善を、事業目線とリスク目線の両方から評価できる力。
4. コラム — 事業会社の企画担当から、BaaS推進の専門職へ
僕が面談した30代前半の女性は、EC事業会社の企画部門で、後払い決済機能の導入プロジェクトを担当した方でした。当初は「決済を足すだけ」という認識でプロジェクトを進めていましたが、資金決済法の適用範囲を確認する過程で、想定していたスケジュールが大きく崩れる経験をしたそうです。
この経験を機に、彼女は規制知識を体系的に学び直し、次のプロジェクトでは企画段階から金融機関側のリスク部門と並走する進め方に切り替えました。結果、二度目のプロジェクトは当初のスケジュール通りにリリースまで到達し、社内で「金融連携の分かる企画担当」として評価されるようになったといいます。
彼女が語っていた言葉が印象的でした。「規制を制約だと思っていたけど、実は早く知るほど武器になるものだったんです」。この認識の転換こそが、BaaS・組込金融プロジェクトを成功させる鍵だと僕は考えています。
5. 金融機関側から見たBaaS推進の課題
5-1. 連携先の事業者が増えるほど、審査・モニタリングの負荷が増大し、体制強化が追いつかないという課題があります。
5-2. 従来型の稟議プロセスでは、事業側のスピード感に対応しきれず、機会損失につながるケースが指摘されています。
5-3. この課題に対応するため、BaaS専門のプロジェクト推進部門を新設する金融機関が増えており、そこでのPM人材の需要が生まれています。
5-1. 海外事例に見るBaaS・組込金融の広がり方
海外に目を向けると、決済・貸付・保険といった金融機能を非金融事業者のサービスに組み込む動きは日本より数年先行しています。物流・小売・SaaSなど、業種を問わず自社の顧客接点に金融機能を足す動きが一般化しており、その過程で規制対応とスピードを両立させる専門人材の需要が拡大してきました。日本でもこの流れが本格化しつつあり、先行事例から学べる部分は少なくありません。
特に参考になるのは、金融機能を「後付け」ではなく企画の初期段階から前提として設計するアプローチです。事業の骨格が固まってから金融機能を足そうとすると手戻りが大きくなるため、海外の先行企業の多くは、企画段階から規制対応チームを巻き込む体制を最初から作っています。
6. 転職市場から見たBaaS・組込金融PMの立ち位置
この職域はまだ母数が少なく、確立された職種名も存在しません。しかし、だからこそ、規制と事業の両方を理解した「翻訳者」としての希少性は高く、企業側の評価は年々上がっています。僕が見てきた範囲では、金融機関出身者が事業会社に転じるケースと、事業会社出身者が金融機関のBaaS部門に転じるケースの両方が増えており、双方向のキャリア移動が活発になっているのが特徴です。
6-1. 面接で語るべき「両利き」のエピソード
BaaS・組込金融PMの面接では、事業側の視点と金融側の視点の両方を持っていることをどう伝えるかが鍵になります。効果的なのは、「事業側の要望をそのまま通さず、規制上のリスクを指摘して仕様を調整した」という具体的な場面を語ることです。単に規制知識があることを示すだけでなく、事業を止めずにリスクを制御した経験があることが、このポジションでは特に評価されます。
(結論)BaaS・組込金融PMは、規制と事業の橋渡し役という希少なポジションである
まとめます。①BaaSと組込金融は同じ現象を提供側・利用側それぞれから見た言葉であり、一体で理解する必要がある。②規制対応を後回しにするプロジェクトは高確率で手戻りが発生し、企画段階からの並走が成功の鍵になる。③この橋渡し役を担える人材はまだ少なく、市場価値の伸びしろが大きい。
率直に言うと、この職域はまだ黎明期にあり、キャリアの型が確立していません。だからこそ、今飛び込む人が型を作る側に回れるチャンスがあります。まずは15問の適性診断で、自分がどの金融PMタイプに近いかを確かめてみてください。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. BaaSと組込金融、転職市場ではどちらの求人が多いですか
現時点では非金融事業者側の組込金融プロジェクトの求人が増加傾向にあります。金融機関側のBaaS推進部門の求人も新設が続いており、双方向のキャリア移動が活発になっています。
Q. 金融知識がなくてもBaaS・組込金融PMを目指せますか
目指せますが、資金決済法・貸金業法など関連法規の基礎知識は早い段階で身につける必要があります。事業企画の経験がある方であれば、規制知識は後から補強できる部分が大きいです。
Q. BaaS・組込金融PMの年収はどのくらいが目安ですか
650〜1000万円程度が目安です。母数がまだ少なく企業ごとの提示額のばらつきが大きい職域です。これは当メディア独自ガイドの目安値であり、統計値ではありません。
Q. 企画段階から規制対応チームを巻き込むメリットは何ですか
リリース直前での大きな手戻りを防げることが最大のメリットです。海外の先行事例でも、金融機能を「後付け」ではなく企画の前提として設計する企業ほど、スケジュール通りにプロジェクトを完了させる傾向が見られます。
Q. BaaS・組込金融PMに向いている経験は何ですか
事業企画とリスク管理のどちらか一方でも実務経験があれば向いています。もう一方の視点は、実際のプロジェクトを通じて後から補強できる部分が大きく、両方の経験がそろっている必要は必ずしもありません。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。